伝説のウエストコースト・シンセが手元に??Arturia「Buchla Easel V」レビュー

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シンセサイザーの歴史を語る上で、Don Buchlaという名前を避けることはできない。Robert Moogと同じ1960年代に電子楽器の世界に革命を起こしながら、まったく異なる哲学と設計思想で独自の道を歩んだ人物だ。そのBuchlaの代表作のひとつ、1973年製の「Music Easel」をソフトウェアで完全再現したのが、Arturia「Buchla Easel V」である。

Arturia「Buchla Easel V」

目次

ウエストコースト・シンセシスとは何か?

まずBuchlaを語るには、「ウエストコースト・シンセシス」というコンセプトを理解する必要がある。東海岸(イースト・コースト)のMoogが鍵盤演奏を前提とし、フィルターで音を削っていくサブトラクティブ合成を基本とするのに対し、西海岸(ウエスト・コースト)のBuchlaは根本的に異なるアプローチを取った。

波形フォールディング(ウェーブフォールディング)によって倍音を積み上げていくアディティブ的な発想、鍵盤を排してタッチプレートや電圧制御で演奏する姿勢、そして「音楽とは構造ではなく体験である」という哲学??これらすべてがウエストコースト・シンセシスの根幹をなしている。BuchlaのMusic Easelはその思想を凝縮した、コンパクトでありながら深遠な楽器だった。


Arturia TAE™技術による精密な再現

ArturiaのVシリーズが他のエミュレーションプラグインと一線を画すのは、その再現精度にある。Buchla Easel Vでは、独自のTAE™(True Analog Emulation)技術を用い、オリジナルのMusic Easelをコンポーネント(部品)レベルでモデリングしている。抵抗、コンデンサ、トランジスタの動作特性に至るまで忠実に再現することで、デジタルプラグインでありながら本物のアナログ回路が持つ非線形な挙動や倍音の豊かさを体験できる。

ハードウェアのオリジナルは非常に希少で高価であり、入手すること自体が困難だ。Buchla Easel Vはそのサウンドと操作感をDAW上で手軽に体験できる、現時点でほぼ唯一の選択肢と言っていい。


サウンドエンジンの核心:Complex OscillatorとModulation Oscillator

Buchla Easel Vのオシレーターセクションは、Complex OscillatorModulation Oscillatorの2基から構成される。

Complex Oscillatorはウェーブフォールディング機能を持つ主役的なオシレーター。正弦波を入力として折り畳む(fold)ことで倍音を付加するこの仕組みは、MoogのVCFによるサブトラクティブ合成とは根本的に異なる音作りの発想だ。Timbreコントロールを動かすだけで、純粋な正弦波から金属的でクラスターな複雑波形まで連続的に変化し、その過程で生まれる音の多彩さは他のシンセにはない独特の魅力を持つ。

Modulation Oscillatorは低周波から可聴域まで幅広い範囲をカバーし、AMやFMによるモジュレーションを担当する。両オシレーターを組み合わせることで、静的な音色はほぼ作れないほど常に動き続けるサウンドが生まれる。


デュアル・ローパスゲートと「Vactrolモデリング」

Buchlaサウンドの象徴とも言えるのが、ローパスゲート(Low Pass Gate)だ。

通常のフィルターが周波数特性を変化させるだけなのに対し、ローパスゲートはフィルタリングとアンプが一体化した独特の素子で、音量と音色が同時に変化する。これにより、パーカッシブで有機的な、まるで生楽器のようなアタックとディケイが生み出される。

Buchla Easel Vではこのローパスゲートを2基搭載しており、さらにオリジナルの物理素子「Vactrol」の応答特性をモデリングして再現している。Vactrolの応答速度をFast、Medium、Slowから選択できる機能も実装されており、音の立ち上がりと減衰の微妙なニュアンスまで細かくコントロール可能だ。


セミモジュラーのパッチング体験

Buchla Easel Vはセミモジュラー構造を採用しており、内部モジュール間を仮想パッチケーブルで結線できる。オリジナルのBuchlaシステム同様、ここでのルーティングが音色の個性を決定的に左右する。

ArturiaはこのパッチングUIを大幅に使いやすく改良している。パッチポイント同士をドラッグすると、有効な接続先だけがハイライトされる仕組みになっており、無効な接続を誤って行う心配がない。ケーブルはカラーコードで識別できるため、複雑なルーティングでも視覚的に把握しやすい。

さらに、オリジナルのMusic Easelには搭載されていなかったノイズソースがプリアンプセクションに追加され、リズミカルな要素を簡単に取り込めるようになった。プリアンプにはフィードバックループも設けられており、暴力的な自己発振サウンドも得られる。


Arturiaによる拡張機能

Buchla Easel Vの大きな魅力のひとつが、オリジナルを忠実に再現しつつも、実用的な拡張機能を備えている点だ。

Left Hand セクションでは5基のFunction Generatorが利用可能で、それぞれを76のモジュレーション先に個別にルーティングできる。多点エンベロープやLFOとして機能し、ランダムネスや平滑化の付加も可能だ。

Right Hand セクションにはモダンなステップシーケンサーが搭載されており、革新的なオプションが揃っている。

そして最もユニークな拡張機能がGravityと呼ばれるX/Yモジュレーションソースだ。バウンスするボールが惑星やワームホールの引力・斥力・衝突の影響を受けながら動くという物理シミュレーションに基づいており、予測不能でありながらも物理法則に従った独特のモジュレーション信号を生成する。このGravityによるコントロールは、他のどのシンセにも存在しない発想で、Buchla Easel Vの最も創造的な部分と言える。

さらに10種類のエフェクト(フェイザー、フランジャー、コーラス、オーバードライブ、ディレイなど)も内蔵しており、音作りをプラグイン単体で完結させることもできる。


ポリフォニーとパフォーマンス

モノフォニックが基本のBuchlaサウンドに対し、Buchla Easel Vは最大4ボイスのポリフォニーをサポートしている。ただし、コンポーネントレベルのモデリングによる高精度なアナログエミュレーションはCPU負荷が高く、各ボイスあたり約20%のi7 CPU(目安)を消費する点には注意が必要だ。ポリフォニーを使う際は、十分なスペックのマシンを用意したい。

256種類のファクトリープリセットには、経験豊富なサウンドデザイナーたちが制作した音色が揃っており、幽玄な美しい音色から耳に刺さるような金属的テクスチャーまで、Buchlaサウンドの広大な可能性を一望できる。


どんな音楽・用途に向いているか?

Buchla Easel Vはあらゆる音楽に使えるシンセではない。それは明確に「実験的で独自の音楽」のための楽器だ。しかし、その領域においては他の追随を許さない個性と深みを持つ。

特に親和性が高いのは以下のようなジャンルや用途だ。

  • 現代音楽・電子音楽:ウエストコースト・シンセシスのルーツを持つ音楽表現
  • アンビエント・実験音楽:鍵盤を使わずとも、Gravityやシーケンサーで自律的に進化するサウンドスケープ
  • 映画・ゲームのサウンドデザイン:異世界的で一度聴いたら忘れられないテクスチャー
  • モジュラーシンセ入門:実物のモジュラーを購入する前に、BuchlaとEaselの哲学を学ぶ入口

逆に、クリーンなポップスや4つ打ちの打ち込みトラックには合わないかもしれない。「音楽の外側」を探求したい人のための楽器だ。


価格・動作環境

Plugin Boutiqueにて$149で販売中(無料トライアルあり)。

動作環境

  • Mac:macOS 10.13以降、Apple Silicon対応、VST / AAX / AU / NKS(64bitのみ)
  • Windows:Windows 10以降(64bit)、VST / AAX(ARMプロセッサー非対応)
  • RAM:4GB以上、CPU:4コア / 3.4GHz以上、ストレージ:3GB以上の空き
  • 認証:Arturia Software Center(無料)

まとめ

Arturia Buchla Easel Vは、現代のDAW環境に伝説のBuchla Music Easelをよみがえらせた、きわめて意欲的なソフトウェアシンセだ。コンポーネントレベルのTAE™モデリングによる忠実な再現に加え、Gravity、Left/Right Hand拡張、ポリフォニーなどArturiaならではの革新的な機能拡張が加わることで、オリジナルを超えた表現の可能性が広がっている。

Plugin Boutiqueのユーザーレビュー平均4.7/5.0(71件)という評価は、その完成度の高さと独自性への賞賛を物語っている。

「音楽の常識の外側」に踏み出したいすべての音楽家に、心からお勧めしたい一本だ。


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この記事を書いた人

スマホ大好き人間です。

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